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新井達太先生

埼玉県立循環器・呼吸器病センター名誉総長

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生命に対する畏敬の念を持ち
苦しい時に希望を持って歩んだ医師としての道

ー病気を治すのは医師ではない

外科医にとって重要な資質として、「明朗、勇気、確実、冷静、決断」ということが昔から言われています。確かにどれも必要だと納得するものばかりです。しかし、私が最も大事だと思うのは、「生命に対する畏敬の念」です。さらには自分を犠牲にしてでもなんとかしたいという「犠牲を伴う愛」がなければなりません。
たくさんの手術をしていると、時にはスムーズに行かないこともでてきます。体外循環を終えて心臓を蘇生させようとしてもなかなか動いてくれない。そんなときにはこちらの胸まで痛み、人知れず「頼む、動いてくれ!」と祈る気持ちになるものです。
私が師と仰ぐ東京女子医科大学の榊原教授は取材に対して、フランスのアンブロアズ・パレの言葉を引用して「外科医は切ること、縫うことはできるけれど、治癒させるのは外科医の力ではなく神の力なのです」と答えています。当時私は入局2年目でしたが、今でも深く胸に刻まれている言葉です。
外科医が奢ってはいけない。生命に対する畏敬の念、自己犠牲を伴うような深い愛情、そしてなんとかよくなって欲しいという祈る気持ち。こうした思いを常に持ち、謙虚に取り組むことが医師にとっては最も大事なことだと考えています。

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ー外科医の喜び

こうして取り組んだ手術が成功し、患者さんが元気になって活躍するのを見ることは大きな喜びです。先天性の心疾患であるファロー四徴症だった方が2度の手術で根治し、「先生、高校卒業後は蕎麦屋で修行します!」と報告に来た時には驚きました。ほんの5メートルも走るとチアノーゼが出て苦しくなってしゃがみ込む。そんな子ども時代を送っていたのに、体力を必要とする蕎麦屋で修行し、さらには自分の店まで持つようになりました。
また、ある方は手術後「山形に転勤命令が出たのですが、そんな寒いところに行くのは無理ではないでしょうか」、と相談に来られました。手術をした後で不安な気持ちもわかりましたが、手術は大成功でしたし、とても精神面・体力面において力のある方でしたので、「それなら北海道にいる患者さんはどうなるのでしょうか。あなたの心臓は手術前の力が2や3だとすると、今は8,9という力を持っています。もし今すぐの転勤が不安であれば、半年後に伸ばしてもらってはいかがでしょうか。」と背中を押しました。彼は驚いた様子で黙り込んでしまいましたが、私の言葉に力を得たようで、半年後に山形へ飛び立ちました。その方はある大手電機メーカーにお勤めで、山形の子会社へ取締役として赴任し、その後社長となり会社を大きく飛躍させました。
幼い時ファロー四徴症の根治手術を受けた患者さんは、国立医科大学に入学し、卒業後は医師としても最も過酷な心臓外科医の道を選びました。現在は、ある大病院の心臓血管外科部長と活躍しています。
他にもプロ野球選手や会社経営者など、さまざまな方の手術を担当しました。「病気のせいで諦めなければいけないと思っていたことが、手術を受けることで元気になり、好きな仕事に打ち込むことができた」とご本人やご家族から言っていただけるときは、何年心臓外科医としての経験を重ねてきても、毎回本当に嬉しい気持ちになるものです。

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ー自分が切られる立場を経験

実は私自身、30代で開胸手術を受けました。術後に出血がとまらず再度開胸手術を受けることになったのですが、当時の再開胸手術の成功率は50%程度。非常に不安な気持ちになりました。患者さんは、身体だけでなく精神的にも大きなダメージを受けているのだということをまさに身を以て体験したのです。患者として手術を受ける側の立場になったことは、医師として患者さんと向き合う上で、非常に貴重な経験でした。
私は1994年に開設された埼玉県立循環器・呼吸器病センターの総長に就任しました。その際に掲げたのが「患者さんに親切な、患者さんを大切にする『患者第一』のセンター」という理念です。この理念は、医師はもちろんのこと、看護師や薬剤師、さらに技師など、病院で働くスタッフ全員に理解、共感してもらうことができました。

ー苦しい時に喜びと希望を持つ

私が長年医師として働くことができたのは、自分に向いていたからだと思います。心臓外科医という仕事が大好きでした。しかし、誰もが最初から自分に向いた科を選んでいるとは限りません。医師の良いところは、いろいろな科を選ぶことができる点です。基礎医学や内科、産婦人科、泌尿器科などさまざまな科があり、また、多様な道があるのですから、自分に向いた科はどういうところか、どういう働き方が合っているのかを探し当てることが大切だと思います。これは研修医の時に十分に検討して下さい。手先の器用な人は外科系を、そうでない人は内科系を選ぶことをおすすめします。
そして、重要なことは、胆力を持つことです。私はキリスト教徒の両親から聖書の言葉をたくさん学びました。その中でも「患難をも喜ぶ」という言葉は、幾度も私を支えてくれました。苦しいことを乗り越えようとすると忍耐力がつきます。忍耐を持って臨むことで練達をもたらし、さらに練達から希望が生まれるのです。
人工心臓の権威として世界的にも有名な2人の先生からも、「患難をも喜ぶ」という精神に通じる思いを教えていただきました。人工心臓の実験では、24時間動物を生存させるために何年もかかり、「胸までつかる泥沼」と揶揄する人もいたほどです。そんなときに2人の先生はどういう気持ちでいたのでしょうか。その質問に対して2人は、「私には夢がありました」「希望がありました」と答えました。私は、非常に感銘を受けました。苦しいからといって違う道を選ぶのではなく、そこに喜びを感じて邁進していく。私自身もこのことを胸に深く刻んでいます。

埼玉県立循環器・呼吸器病センター名誉総長

新井達太先生

大正15年埼玉県秩父市生まれ。昭和28年東京慈恵会医科大学卒業。昭和29年東京女子医科大学榊原外科入局。東京女子医科大学・心臓血圧研究所教授、東京慈恵会医科大学心臓外科学講座・初代主任教授、埼玉県立循環器・呼吸器病センター初代総長を歴任。現在、日本胸部外科学会名誉会長、日本人工臓器学会名誉会長、日本心臓血管外科学会名誉会員、日本冠動脈外科学会名誉会員、日本血管内治療学会名誉会員、日本外科学会特別会員ほか。
【著書】
 心臓手術の適応-術後のフォローアップ、金原出版
 心疾患の診断と手術、南江堂、改訂第5版2刷
【編著】
 外科医の祈り、メディカルトリビューン
 心臓弁膜症の外科、医学書院; 第3版
 心臓外科、医学書院 など

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